若い頃は、仕事終わりに遊びに行けましたし、多少の無理も平気でした。ところが今は、少し夜更かししただけで翌日が使い物にならない。そんなギャップを感じていませんか?
「気合いを入れればまだいける」と無理を重ねるほど、苦しくなるのが人生後半戦です。この記事では、本田直之さんの著書『セカンドハーフ戦略』を解説した動画をもとに、40代・50代からの戦い方を整理しました。昔の自分に戻ろうとするのではなく、今の自分に合ったやり方へ切り替えるヒントをお届けします。
人生後半戦は「戦い方」を変えるタイミング
著者の本田さんは、体力にかなり自信のある方でした。50歳のときにはトライアスロンで自己ベストを更新しています。ところが57歳になる直前に柔術を始めると、ケガを繰り返すようになり、ついには靭帯を断裂して手術を受けることになりました。
体は変わっているのに、若い頃と同じ前提や気合いで追い込んでいた。本田さんはこの気づきが、柔術だけでなく仕事や人生すべてに当てはまると考えました。
しかも、日本人男性の健康寿命は72.5歳といわれています。自由に動ける時間は、思っているよりずっと短いのです。だからこそ大切なのは、若い頃の自分に戻ろうとすることではなく、40代・50代の今の自分に合った戦い方へ切り替えることです。
本田さんは、40代を準備の時期、50代を本格的に切り替える時期と考えています。前半戦と後半戦の間にある「ハーフタイム」で作戦を立て直す。それが書名にもなっている「セカンドハーフ戦略」です。
若い頃の速さではなく、経験で勝負する
若い人と同じ土俵で戦うと苦しくなる
物覚えが悪くなったと感じると、「もっと勉強して若い人に追いつかなきゃ」と焦りがちです。しかし、若い人に混じって長時間働いたり、数をこなして勝負したりするのは、反射神経が物を言う対戦ゲームで10代のプレイヤーに挑むようなものです。
では、年を取ったら諦めるしかないのでしょうか。いいえ、戦う場所を変えればよいのです。
流動性知能と結晶性知能とは
ヒントになるのが、心理学者レイモンド・キャッテルが提唱した2つの知能の考え方です。
- 流動性知能:新しいことを覚える力や、素早く計算する力です。速さや瞬発力、飲み込みの速さのことで、20代をピークに少しずつ落ちていきます
- 結晶性知能:これまでの経験や知識をもとに、「この場面ならこうすればいい」と判断する力です。年を取るほど伸びていきます
動画では、MITやハーバード大学の研究者が約5万人のデータを調べた研究が紹介されていました。それによると、結晶性知能は50代・60代でも伸び続け、70代でも高い水準にあったそうです。頭の回転では若い人に負けても、経験にもとづく判断力では、人生後半のほうが有利なのです。
サッカーにたとえるとわかりやすくなります。40代になって現役選手と足の速さで勝負しても勝てません。でも、試合の流れを読んで選手をどう使うかを決める「コーチ」なら、経験を積んだ人のほうが強いのです。
年齢を重ねるだけでは「ベテラン」にならない
ただし、年を取れば誰でも頼れるベテランになれるわけではありません。大事なのは、経験を振り返って学んでいるかどうかです。
たとえば仕事で失敗したとき、「運が悪かった」で終わらせてしまうと、何を変えればいいのかがわからないままです。次のような習慣をつけましょう。
- 何が原因だったのかを考える
- どうすれば防げたのかまで考える
- 似た場面に出会ったとき、「あのときこう対処した」と判断できるようにしておく
日々の経験から学ぶことが、人生後半の武器をつくります。
あえて初心者になれる場所で恥をかく
老いは「感情」から始まる
「老い」はどこから始まると思いますか? 多くの人は、体力や記憶力の衰えを思い浮かべるでしょう。ところが動画では、高齢者の精神医療が専門の和田秀樹さんが、老いは感情から始まると書いていると紹介されていました。
意欲や感情をコントロールする前頭葉は、40代から50代にかけて縮み始めるといわれています。記憶を担当する海馬の衰えを実感するのは、それよりずっと後です。次のような変化は、感情の老いのサインかもしれません。
- 何をするのもめんどくさくなる
- 新しいことを覚えるより、いつものやり方で済ませたくなる
- 何を見ても「ふーん」で終わってしまう
面白そうと思えなくなると、知らない世界に入ろうという気も起きません。すると刺激が減り、前頭葉がさらに縮む。そんな悪循環に陥ってしまいます。
恥をかく場所が、脳を目覚めさせる
そこで大切になるのが、人生後半であえて恥をかける場所を持つことです。ある年齢を過ぎると、肩書きや実績が邪魔をして、周りが気を使って間違いを指摘してくれなくなります。恥をかかずに済む快適さに座り続けると、人は頑固に固まってしまいます。
肩書きが通用しない場所で「できない自分」を突きつけられると、人は頭を使ってやり方を変えようとします。サボりかけていた前頭葉が、ピンチだと慌てて動き出すのです。筋肉を保つためにスクワットで負荷をかけるように、脳の若さを保つためにも、適度な負荷が必要です。
居心地のいい場所にいて格好つけているだけでは、好奇心は動きません。小さな気まずさや違和感が、止まりかけた好奇心をもう一度動かしてくれます。
10年後も動ける体をつくる
50代から体のルールが変わる
本田さんは、昔は食べる量を少し減らして軽く運動すれば、すぐ体重が戻るタイプでした。ところが50代に入ると、そのやり方がまったく効かなくなり、気づけば体重は81kgになっていたそうです。
背景にあるのは、体の変化です。
- 筋肉は30代後半から少しずつ減り始め、50代でそのペースが一気に早まります
- 筋肉は「エネルギーを燃やすエンジン」なので、減ると同じ量を食べても太りやすくなります
- 回復力も落ちるため、若い頃のノリで無理をするとケガにつながります
本田さんは、「体が重くなり、おいしいものも旅行も運動も諦める人生にするのか。それとも体を根本から作り直して、やりたいことをやり続けるのか」と自分に問いかけ、後者を選びました。
本田さんが実践した体づくり
- 食事記録アプリ(MacroFactor)で食べたものをすべて記録し、1日の消費カロリーをもとに計画を立て直す
- 1日のうち16時間は何も食べない時間をつくり、脂肪を燃やしやすい体に変える
- プロのトレーナーをつけて、筋トレを一からやり直す
トライアスロンに熱中していた頃は、「動ける筋肉だけあればいい」と筋トレをやめていたそうです。しかし人生後半は筋肉が落ちるスピードが速く、カロリーを燃やしてくれる筋肉が知らないうちに減っていました。それが、痩せにくくリバウンドしやすい体の正体でした。
続ける力は、気合いではなく知識から
ここまで徹底するには、根性が必要に思えます。しかし本田さんは、続ける力は気合いではなく知識から生まれると言い切っています。
散歩中や運動中にオーディオブックで健康や栄養の本を聞き続け、本や論文、AIから正しい知識を集めました。なぜこの運動が必要なのか、今自分の体で何が起きているのかを自分に納得させたのです。「このまま続ければ体は変わる」と深く理解できていたから、モチベーションが途切れませんでした。
もう一つのコツは、完璧を目指さないことです。食べすぎた日があっても自分を責めず、1週間ほどかけて元に戻せばいいと割り切っていました。
結果として、体重は81kgから69kgまで減り、筋肉も戻りました。朝から頭にモヤがかかる「ブレインフォグ」が消えて、思考がクリアになり、自信も取り戻せたそうです。
体づくりの目的は、見た目を良くすることだけではありません。10年後も自分の足で行きたい場所に行けること。やってみたいことが見つかったとき、ためらわず挑戦できること。そのための土台が、動ける体なのです。
新しいことは小さな実験から始める
やりたいことが見つかっても、「もっと準備してから」「恥をかかないように」と考えているうちに、1年が過ぎてしまうことがあります。人生後半は、いつかやろうと先延ばしにしている間に、体力や気力のほうが先に落ちてしまうかもしれません。
そこで本田さんがすすめているのが「ベータ版思考」です。アプリのテスト版のように、完璧になるのを待たず、小さく試して、やりながら直していく考え方です。
一歩を小さくするコツ
- ジムに通おうと身構えてしまうなら、来週の火曜日に近所のジムを1回だけ見学すると決める
- 調べるだけでもよしとする
- 釣りなら、友達をとりあえず誘ってみる
そして大事なのが、「合わなければ1回でいつでもやめていい」というルールです。始めたら続けなければいけないと思うから、新しいことに手を出せなくなります。本田さん自身も、柔術を始めてみて、ケガのリスクや体との相性を考えてスパッとやめています。試したからこそ、合わないと判断できたのです。
小さく試した経験は無駄になりません。後になって、思わぬ形でつながることもあります。まずは気になっていることを1つ選んで、少しだけ試してみましょう。
足し算から引き算へ切り替える
若い頃は、人脈も仕事も経験も、とにかく増やしていく「足し算」が大切でした。ところが50代になっても同じことを続けていると、義理の付き合いや「せっかくだから」で引き受けた予定に、自分の時間が埋め尽くされてしまいます。
だから人生後半は、何を減らすかを考える「引き算」が大切になります。これは、やりたいことを我慢するということではありません。本当にやりたいことをはっきりさせて、そこに時間とエネルギーを使うために、それ以外を削ぎ落とすということです。
奪われる前に、自分から手放す
年を取れば、仕事も体力も人付き合いも、少しずつ減っていきます。それをただ「奪われた」と感じていると、喪失感ばかりが残ります。だから、自分にとって必要なくなったものは、自分の意思で先に手放しましょう。同じ「減る」でも、奪われたのと自分で手放したのでは、気持ちがまったく違います。
手放す候補は、探せばいくらでもあります。
- 若い頃からなんとなく続けている習慣
- 気が乗らないのに、毎回顔を出している集まり
- 断りにくくて引き受けている仕事
- 昔は楽しかったけれど、今はそうでもない付き合い
本田さんも、「とりあえずビール」で何も考えずに飲む習慣をやめたり、惰性の付き合いや仕事を断ったりして、本当にやりたいことのための時間をつくっています。
世代の違う仲間をつくる
50代以降は、放っておいても新しい仲間は増えません。退職や病気、介護などもあり、同世代だけに頼っていると、人間関係は少しずつ狭くなっていきます。
だからこそ、年下の人や、自分とは違う分野の人とつながることが大切です。若い世代と交流すれば、知らなかった考え方や価値観にも触れられます。
「転校生」になる力
新しい場所に入ったとき、昔の実績や会社の肩書きをひけらかしていたら、誰も仲良くしたいとは思いません。会社では偉くても、一歩外へ出れば肩書きは関係ないのです。先輩づらをしたり、いきなり仕切ろうとしたりせず、転校生のように「教えてもらう姿勢」で少しずつなじんでいきましょう。
損得抜きで付き合える仲間を持つ
損得が絡まない仲間なら、まだうまくできない練習中の姿も、素直に見せ合えます。完成した姿ではなく、格好悪い途中の姿を見せ合える関係は、とても居心地がよいものです。
大げさなことをする必要はありません。
- 気になっていた趣味の集まりに、1回だけ顔を出してみる
- オンラインのコミュニティをのぞいてみる
- 入りたいコミュニティがなければ、自分でつくってしまう
実例:本田さんが寿司修行で気づいたこと
本田さんは、世界中のおいしいものを食べ歩き、本や雑誌で食について語ってきましたが、自分ではほとんど料理ができませんでした。出刃包丁と柳刃包丁の違いもわからず、できるのは果物の皮をむくくらい。それがコンプレックスで、10年ほど前から料理をやりたいと思っていました。
どうせ学ぶなら、お店で出せるレベルを目指したい。そこで選んだのが寿司でした。日本人として寿司が握れれば、世界中どこでも人を喜ばせられると考えたのです。
小さな実験から始めた寿司修行
普通に考えれば無謀ですが、本田さんは先ほどの「小さな実験」の考え方で進めました。
- まずはオンラインの寿司学校に入る
- 毎日のように豊洲から魚を取り寄せ、自分でさばいて握る(シャリを炊くだけで手一杯で、最初は1日3時間では終わらなかったそうです)
- 3か月ほど続けた後、東京寿司アカデミーに2か月通い、制限時間付きの試験などで技術を鍛える
続けられた大きな理由は、一緒に学ぶ仲間の存在でした。オンラインサロンの仲間と一緒に通い、「大人の部活」のような感覚で楽しめたそうです。
点だった経験が、線につながった
寿司を握り始めると、思わぬ変化が起きました。30年近く名店を食べ歩いた経験が、作る側に回った途端に、すべてつながり始めたのです。
- あの店はシャリの温度がこうだった
- あの大将はこういう角度で包丁を入れていた
- 寿司にはどんなお酒を合わせるのか
なんとなく味わっていたものを、作り手の目線で理解できるようになりました。まさに、年を重ねても伸びる結晶性知能が生きた場面です。これまでの経験という「点」が、新しい挑戦をきっかけに「線」としてつながったのです。
初心者として先生や仲間から容赦なくダメ出しされることも多かったそうですが、それすら学生時代に戻ったようで楽しかったといいます。年を重ねるほど周りが気を使うようになるので、年齢や肩書きに関係なく「それじゃダメだ」と言ってもらえる場所は、とても貴重な学びの場です。本田さんは今も、ヨットを始めたり、東京から福岡へ引っ越したりと、気になったことを小さく試し続けています。
まとめ
人生後半戦は、若い頃の量やスピードを根性で続けようとすると、どこかで無理が出てきます。昔の自分に戻ろうとせず、今の自分に合ったやり方へ切り替えることが大切です。
そのために意識したい6つのポイントをまとめます。
- 若い人と速さで張り合わず、積み重ねた知識や経験で勝負する
- 恥を恐れず、初心者として新しいことを学べる場所を持つ
- 10年後もやりたいことを楽しめるよう、食事と筋トレで動ける体をつくる
- 完璧な準備を待たず、新しいことは小さな実験から始める
- 惰性の習慣や義理の付き合いを減らし、本当に大切なことに時間を使う
- 世代の違う仲間をつくり、年下からも素直に教わる
新しい挑戦を始めると、これまでの経験が思わぬ形で役立つこともあります。まずは、気になっていることを1つだけ選んで、小さく試してみましょう。ジムの見学を1回予約する、気になる集まりをのぞいてみる。そんな小さな一歩で十分です。
より詳しく知りたい方は、ぜひ書籍を手に取ってみてください。なお、食事制限や筋トレなどを始める際は、体調や持病に合わせて、必要に応じて医師や専門家に相談することをおすすめします。